5月29日、渋谷カナエルで”みんなの談話室vol.02「日本の音楽シーンってどうですか?」”が開催された。event-cover金曜日で賑やかな街を横目に渋谷駅から徒歩7分、マンションの5階に位置するカナエルへ。
今回のゲストは日米で活動するガールズバンドThe SuzanのRieさん。中盤からはメンバーのSaoriさんも談話室に登場した。

イベントは”「日本で音楽するボクらが、今考えるべきこと」を学ぶ”というテーマのもと、ミュージック・クリエイターズ・エージェントの代表理事である永田純が進行を担当。会場にはミュージシャン、ブッキングエージェント、メディア運営担当など様々な背景を持つ20代~50代の男女が15名ほど集まった。

ここでは、当日約3時間にも渡って行われたこのイベントについて、The Suzanのこれまでの活動や、Rieさんが今考えていることなどを少しだけ公開する。

▶︎「自分でやっていく」文化の中で生きるために

The Suzanは2004年に日本で結成後、2007年にヨーロッパ、2010年はニューヨークと活動を広げ、現在は再び日本に拠点を置いている。世界を渡り歩く中で、何を意識しながら音楽活動を続けてきたのかをRieさんは語った。

日本にはアーティストがレーベルに所属をし、レーベルがアーティストに仕事や機会を提供するという形があるが、アメリカの場合は少し異なる。アーティストが音楽活動を展開する中で、流通はとあるレーベルへ依頼、ブッキングはとあるエージェントに依頼、著作権関係はとある会社に依頼、などアーティストが中心となって必要な外部と関わっていくような形であるという。これにはいわゆる古来日本の「年功序列主義」とアメリカの「実力主義」文化の違いも関係している。

この「自分でやっていく」文化の中で生きていくためには、当然「戦略」が大事になる。限られた時間をどう使うか、人の繋がりをどう活かしていくか、どうやって仕事を展開していくか、どうやって人に注目してもらうか。例えば、パーティでDJを担当している方が休憩する時に代わりにDJとして参加し、写真に写ったことで顔を覚えられ、次のパーティで声をかけられて仕事を獲得したこともあると話す。このように、Rieさんが話す過去のThe Suzanの活動の中には、セルフプロデュースの観点でどの業種にでも当てはまるようなエッセンスや心構えが随所に詰まっていた。

▶︎「フェア」という感覚について

Rieさんの会話の中で印象に残ったのが「フェア」という感覚の話だった。

人が生活するにはお金が必要である。仕事をしてお金を受け取り、生活している。この原理は資本主義社会では当たり前の話だろう。

ここで、次の例を考えてみよう。あなたはアーティスト側だと思って欲しい。ある日、こんなオファーが届いた。「有名な音楽フェスに出演してくれないか。宿泊費と交通費は無く出演のお礼も多くは払えないが、何千万人に名前が知られるからメリットは大きいよ。」

違和感に気付いただろうか。演奏には準備や移動を含め、時間や費用がかかっている。また「ライブをする」という仕事に対して対価を支払う、という感覚が一般的であろう。これが「フェア」の感覚だ。

よくある事例として、仕事を依頼される時に報酬についてあまり触れられないパターンや、自分の作業時間に対して低い報酬額を提示されているが断り切れず引き受けるパターンなどが考えられる。これらは、アーティストや関わる人が音楽で生活することや、クリエイターとしてのアウトプットの質を担保することを脅かすことになり、産業全体にとっても喜ばしいことではない。

「フェア」感覚の話には、心理的な要素も含んでいる。例えばバンドでギターが作った曲がCM楽曲として使われてインセンティブが入った場合、メンバーにも適切に配分する。その方が「うまくいく」とRieさんは語った。人間だからお金を独り占めしたい気持ちも生まれることもあると思うが、バンドとして一緒に演奏してくれていることや、メンバーも音楽で生活していることを考えて、「フェア」にお金をやり取りすることが長続きする人間関係のコツだと示唆していた。

他にも、日本のCD文化とアメリカのレコード文化の違いや、デジタルが流行っている今少しずつリアルを求める動きがあることなど、時代や文化を俯瞰して物事の流れを体験してきたRieさんならではの話を聞くことができた。また、最後の30分ほどは実際に参加者が日々ぶつかっている壁に対してRieさんが回答したり、その場にいる人で問題を共有して考えたりと、この「みんなの談話室」ならではの体験をすることができた。

The Suzanは今後7月に2本国内でライブ予定があるほか、クラウドファンディングでのアナログレコードプレスにも挑戦している。詳細はHP(http://pocopocobeat.com/)をぜひチェックして欲しい。

「みんなの談話室」は今後も開催予定。いつでも開催中の「なんでも相談室」と合わせて、興味を持った方はこのページやFacebookページ(https://www.facebook.com/mcagentinfo)で情報更新をチェック頂きたい。


□文章:石松豊
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